幕末の名工中山胡民の銘のある割蓋のお茶器です。蓋は桐です。
本体は南瓜の生地に大胆に蟷螂が1匹高蒔絵で描かれ、一瞬「アール・ヌーボー!」と思いました。
ただ大胆に見えて長くのばした蟷螂の足、触覚も高蒔絵、小さな黒い眼も研ぎ出し蒔絵、腹の部分には切り金細工が施してあります。そして蓋をあけると蓋裏から中は金研ぎ出しに金を置き、厚い青貝を埋めた別世界が広がります。初めて見た時は本当に驚きました。素晴らしい作品です。
作家の真贋に関しては輪島の代々の職人さんに見て頂きましたら 「99%胡民でしょう。そうでなくても今この仕事はできません」との事。確かにこの細工、遊び心は現代の価値観の中ではできない仕事だと思いました。
中山胡民は江戸期の印籠作家原羊遊斎の弟子、パリ万博で活躍した小川松民の師匠にあたります。晩年は法橋の号を受け、この作品も割蓋を開けたとき、初めて「法橋胡民造」の銘が現れます。法橋は元は高僧に授けられる僧位ですが、のちに絵師、仏師にも授けられるようになります。尾形光琳も後年「法橋光琳」の銘を残しています。
箱は共箱ではなく、合わせ箱ですが良い字で書かれていますし 桐箱も大変良い箱です。柔らかい裂のお仕覆は長緒です。 美術館に収まってもおかしくない品だと思いますので、扱う時は少々緊張します。 でもかわいいカマキリちゃんです。
[追記:2012.8.19] 当代十三代遠州流家元小堀宗実宗匠にお願いしていた箱書きが出来上がりました。 本当に中山胡民作品だったのだ・・・とため息、でも私にとっては可愛いカマキリちゃんです。
箱は遠州職方井川真斎さんにお願いしました。遠州流の箱は他の流派と違い底に真田紐が見えない 作りになっています。そして元々カマキリちゃんについていた箱も遠州箱でした。 幕末から明治期だと思いますが、ずっと遠州流の方の元にあったカマキリちゃんだったのですね。